
監査対応がめんどくさい!

今回は監査対応のコツを解説します。
- 経理現場における監査対応がなぜめんどくさいのか?
- 監査対応を少しでも楽にするためにはどうすればいいのか?

<プロフィール>
- 公認会計士試験合格後、13年間監査法人に勤務
- 監査法人退職後はコンサル会社に入社
- コンサル会社を辞め、現在はとあるプライム上場会社の財務経理部長を勤め、監査対応の主担当
筆者は監査法人で監査を行った後に、上場会社の経理部で監査対応を行っています。
- 経理現場で監査対応をしている経理パーソン
- 監査法人に勤めてまだ日が浅い会計士試験合格者
監査法人の監査を僕らはなぜウザいと思うのか?
特に監査法人における監査は、制度の成り立ちから減点方式となっているため「できて当然」「できてなければ怒られる」が通常です。
監査を乗り切って褒められることは稀です。また昨年の指摘事項を直しても「よく頑張った」と褒められることもレアケースです。
そもそも制度としてやる気が出づらい上に、監査法人の監査では以下のようなウザいと思う要求がよく見られます。
去年まで良かったのに今年ダメと言われた
特に会計基準や契約が変わったわけでもないのに言われます。
明らかに間違っているのであればともかく、概ね判断の余地があるようなところで揉めることが多く「いまさら言うなよ」と思うことが大半です。
常に新しい資料を要求してくる
例えば商品の評価損などの決算関係の資料であれば毎年提出が求められますが、お互いに慣れているのでスムーズに進みます。
毎年黙って同じことをやっていればいいのに、なぜか新しい資料を要求してきます。
そして要求してくる資料の9割が他部署と調整が必要だったり、そもそも作っていない資料だったりするので、とにかく面倒です。
売上とかの書類何枚見れば気が済むのさ?
監査法人は売上の金額や計上日付が正しいかを確認するため、売上の根拠となる契約書、検収書等と仕訳をチェックします。
会社の規模にもよりますが毎年100件や200件を見ることも珍しくありません。
売上のチェック自体は当然に行うべきですが、そもそも売上の計上を行うまでの内部統制がありますので、通常は何百件も見たところでエラーが出ることはほぼありません。
内部統制のテストで25件見て、そこからさらに100件以上見るぐらいなら、もう少し他のことに時間使えばいいのにと個人的には思ってしまいます。
新しい担当者へ全然引き継ぎがされていない
監査法人はそもそも離職率が高いことや同じ会社を担当し続けることを良しとしない文化があるため、毎年数名は担当者が変わります。
経理担当者は必ず「ちゃんと引き継ぎしてくださいね」と言い、前任者は「しっかり引き継ぎします」と言い合うのは経理の現場でよく見る風景です。
でもほぼ100%の確率でしっかり引き継ぎされてることないんですよね。
そして毎年新しい担当者が来るたびに、同じような質問をされて経理パーソンが文句を言うところまでが経理現場でよく見る風景パート2です。
忙しい時期を狙ってるかのように連絡してくる
経理は比較的繁閑がはっきりしている職種です。
例えば月末月初は忙しく月中は暇、4,5月は忙しいけど6月は暇など。
ですので、監査法人もこちらが時間に余裕があるときに連絡や依頼をしてくれれば良いのですが、なぜかこちらが忙しいときに連絡してきます。
たまにケンカを売ってきてるのとか思うときすらあります。
監査報酬が高い
本記事は2025年6月に執筆していますが、執筆時点では全体的に物価上昇が続いており、監査報酬はうなぎのぼりです。
監査法人の交代理由の大半が監査報酬が高いので大手から中小に切り替えている と言っても過言ではありません。
ただでさえめんどくさい監査対応。そんな監査に高い費用払って、それだけで経理は経費使いすぎと怒られて、、、

やってられるかぁ!
監査対応を楽に終わらせるにはどうすればいいのか?
ここまで監査法人への文句ばかり書いてきました。
しかし資本主義である限り、また上場会社の経理パーソンである限り、監査対応は避けられません。
ここから監査法人で15年近く監査を行い、経理部長として5年近く監査対応を行っている筆者が考える監査を効率的、否、楽に終わらせるテクニックを紹介します。
スケジュールをガチガチに固める
事前に監査法人と監査のスケジュールを合意することはとても大事です。
ここで言うスケジュールは「いつ監査に来るか」や「監査法人の審査がいつか」等のイベントだけではありません。
筆者は毎回以下まで監査法人と確認します。
- 資料の依頼はいつまでに行うか
- 各資料の提出期限
- 監査法人の担当者別の往査スケジュールと担当科目
- 単体作業と連結作業のそれぞれの完了日
- 開示資料の現場チェックとパートナーチェック etc・・・
また、監査中は毎日16時~17時ぐらいに30分程度の監査進捗を確認するミーティングを入れます。
スケジュールをガチガチに固める理由は2つです。
- スケジュール遵守についてお互いにプレッシャーを感じるようにする
- 予定外対応があった場合になるべく監査法人に文句を言いやすくなる
決算発表は短信であれば45日以内に開示する等、締切日が明確に決まっています。そのためなにか一つ作業が遅れれば、後工程は短納期で行わざるを得ません。
だからこそお互いにいつまでに資料を出すという点は当然として、例えば現預金の監査はいつまでに終わらせると、各作業までスケジューリングを行うことが大事です。
特に確認状の回収や差異調整に時間がかかりますので、細かくスケジューリングする必要があります。
また監査を行っている最中に、追加対応が必要になるのはよくあることです。
それすらも起こる可能性を加味したうえでスケジュールを作る必要があり、監査法人のマネジャーや経理部長の腕の見せどころでしょう。
ここまでお互いに握れれば、期限を超過した場合に自分たちと監査法人のどちらが悪いかが明確になります。
そして大体期限を超過するのは監査法人です(筆者のド偏見)。監査法人はマネジャーやパートナーのレビューで追加作業が発生したり、急に監査法人内で新たな通達が出たりするので現場メンバーに落ち度があるかは微妙なところですが、どんな仕事であっても期限超過は基本的に悪です。
期限超過があまりにひどい場合は役員クラスからパートナーに直接文句を言ってもらうことも検討すべきです。
その際に事前に決めたスケジュールと実際のスケジュールの差異表を1枚作れば、文句を言う際の説得力が全然違います。
私は実際に役員と一緒にパートナーにクレームを出したことがありますが、翌年から監査がかなりスムーズに進むようになりました。
まずはスケジュールをしっかり作り込むことが重要です。
依頼してくる資料を事前に洗い出させる
スケジュール管理と連動しますが、監査で必要な資料は事前に洗い出し、リスト化してもらうことが重要です。
大半の会社は監査前に事前依頼資料リストをもらうと思いますが、イケてない監査チームは大体このリストが甘いです。ひどいところは年度を直しただけの場合もあります。
会社は常に動いているので、新しい事象があれば必要な資料も変わってきます。
また監査基準も毎年変わるので監査上必要になってくる資料の見直しも必要なはずです。
さらに、単純に資料をリスト化してもらったうえで可能なら監査法人がなぜその資料を必要とするのか、その意図もリスト化してもらうことを推奨します。
監査法人から依頼される資料に対して「そんな資料ないよ」と思った経理パーソンは多いと思います。
また日常業務では全く必要ないのに、監査のためだけに作っている資料もあるでしょう。
そんな資料に対して、どうして監査法人が必要としているのか改めて監査法人に聞いてみてください。
もしかしたら普段作っているけど監査法人に出していない資料で代替できるかもしれません。
監査法人も惰性で頼んでいて、実はもうとっくに使ってないかもしれません。
監査対応で特にイラッとするのが、監査終盤で急に追加で資料を求められるときです。しかもそういう資料に限って概ねめんどくさい資料です。
終盤の資料追加がなくなるだけで時間的にも精神的にも監査対応の負担が減ります。
自社のことを知ってもらう
本記事の読者は経理パーソンを想定していますが、そんな皆様にぜひ知っていただきたいのは監査法人の「ちゃんと引き継ぎます」はウソってことです。
そもそも前任の担当者の数年間かけて会得した会社理解をわずか数時間の引き継ぎMTGで引き継ぎきれるわけありません。
さらに言うと「監査に新たな視点を」という名目で意図的に周知の事実を再度確認することすらあります。
監査法人の担当者が変わるのは仕方のないことです。
ですので、筆者はすでに開き直っています。新しい担当者が来たらフラッと監査部屋に行き、30分ほど自社のことを延々と喋ります。
30分でもこちらから話しておくと、監査法人側も「一度聞いたしな・・・」と言う心理が働くので単純な質問はなるべく監査法人内で済ませようとしますのでオススメです。

経理部長などの管理職の方はぜひ監査部屋に行って、自社アピールをしてみてください。
文句はちゃんと言う
カスタマーハラスメントのような言いがかりは論外ですが、監査法人の対応や作業に納得がいかないことがあれば、きちんと話し合いの場を設けて議論をしてください。
実は監査法人も監査をスムーズに終わらせたいと思っています。
監査法人も監査に時間がかかると採算が悪いと本部に怒られ、「あのクライアントはヤバい」と法人内で噂になり優秀なシニアやスタッフには逃げられ、自分たちの残業時間が増えてしまうと実は良いことなんてなにもないのです。
ですので「監査をとっとと終わらせたい」という目的は一致しているので絶対に歩み寄れるはずなのです。
そのために文句や思うことはきちんと言い合うことが大事です。
結局はコミュニケーション
色々書きましたが結局はコミュニケーションです。
そもそも監査は英語でAudit、その語源はラテン語の「auditus」で、「聞くこと」を意味するのでお互いにお互いの話をしっかり聞くことが重要です。
監査法人を使い倒せ
監査対応はメンドウです。
監査報酬は高いですし、本記事執筆している2025年7月時点で上場会社の監査報酬はうなぎのぼりです。
例えば言うこと聞かない営業マンの所業を監査報告会で言ってもらう、遅れている経費精算を監査を理由に突っぱねる、役員に言いづらいことを監査法人から言ってもらうetc・・・。
会社にもよりますが、経理の社内の立場は比較的弱いところが多いです。
そのため監査法人という虎の威を積極的に使っていきましょう。
監査法人の方々へ
本記事を監査法人の方が読むかはわかりませんが一言。
監査法人は担当会社を当たり前のように「クライアント」と呼びますが、クライアントとは「顧客」「依頼先」等の意味です。
監査をする相手なので馴れ合う必要はありませんが、それでもクライアントはお客様です。監査とはちょっと特殊な客商売です。
その当たり前の前提を忘れて監査を行っていると、いつかしっぺ返し喰らいますよ。
まとめ
- 監査対応がメンドウなのはもう仕方ない
- スケジュールと依頼資料は綿密に決めるべし
- お互いに密なコミュニケーションを取るべし
監査対応はめんどくさいです。これは仕方ありません。
めんどくささを少しでも低減させるには、とにかく事前のコミュニケーションと綿密な計画立てです。
では、本日はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございました!