事業会社で働く会計士を組織内会計士って言うらしいけど、実際どういう人たちなの?
現役組織内会計士である筆者が解説します!
- 組織内会計士の解説
- 組織内会計士の年収
- 組織内会計士の業務内容
<プロフィール>
- 公認会計士試験合格後、13年間監査法人に勤務
- 監査法人退職後はコンサル会社に入社
- コンサル会社を辞め、現在はとあるプライム上場会社の財務経理部長
本記事の執筆者は現役の組織内会計士です!
- 監査法人に勤めている公認会計士
- 公認会計士を目指している人
- 論文式試験が終わって就活中の人
組織内会計士とは
組織内会計士の定義は日本公認会計士協会で以下の解説がなされています。
「組織内会計士」とは、日本公認会計士協会の会員及び準会員のうち会社その他の法人(監査法人、税理士法人及びネットワークファームに該当する法人を除く。)又は行政機関に雇用され、又はその業務に従事している者(役員(※)に就任している者を含む。)をいいます。
日本公認会計士協会HPより
つまり監査法人、税理士法人及びネットワークファーム以外の会社等に務めている公認会計士または公認会計士試験合格者を言います。準会員=公認会計士試験合格者も組織内会計士を名乗ることはできます。
以下、本記事では公認会計士と準会員を合わせて「会計士」と称します。
またこの定義ですとネットワークファームに属していないコンサル会社に務めている会計士も組織内会計士になりますが、コンサル会社でコンサルティング業務に従事している会計士は組織内会計士から除外される印象です。逆にコンサル会社に勤めていても、財務や経理に従事している会計士は組織内会計士にカウントされるでしょう。
さらに非常勤で監査役等を務めている会計士は少なくないですが、彼らは監査役という意味では組織内会計士ですが、実際は自らの事務所を持った開業した会計士であることが多く、彼らも組織内会計士とは少し違う気がします。
そのため組織内会計士なのか違うのか悩ましい会計士の方も一定数以上いると思われます。
組織内会計士の人数
述べたとおり、組織内会計士なのか悩ましい会計士の方が一定数いるため、明確な人数はわかりません。
参考までに日本公認会計士協会の組織内会計士ネットワークという組織内会計士のみが登録できるネットワークにおける正会員数は2022年12月末時点で2,364人です。
2022年12月末時点の公認会計士が34,387人、準会員が6,661人の合計41,331人のため、組織内会計士ネットワークに登録している会計士は全体の5%程度です。Link
一方で金融庁が公表したデータによると、2023年3月末時点で監査法人に所属している公認会計士は13,980人であり、残り約20,000人は監査法人に所属しておりません。
この20,000人全員が組織内会計士ということはなく、独立や税理士法人に勤めている方もいらっしゃると思います。
ただ監査法人に所属していない公認会計士約20,000人のうち、組織内会計士は10%程度の2,000人強しかいないというのも少し違和感があります。
ですので、完全に主観ですが組織内会計士は3,000人~5,000人程度ではないでしょうか。少なくとも10,000人はいないと思われるため、会計士の中ではかなりの少数派であることは間違いありません。
組織内会計士の年収
役員なのか従業員なのかでかなり異なりますし、同じ役員でも上場企業の役員か上場準備会社の役員かでも違いがでます。
また、上場準備会社の場合はストック・オプション等のインセンティブ報酬でかなりの差がつきますので千差万別になってしまうでしょう。
しかし人によって違うという解説も虚しいので、あくまで私の個人的な体験及び知人に聞いた話をここからは参考までに書いていきます。
繰り返しになりますが千差万別ですので、あくまで参考程度としてご覧ください。
監査法人とどっちが高い?(筆者の場合)
筆者が監査法人を辞めたのは2019年12月末で、当時の職位はマネジャー、年収は約1,000万円ほどでした。
現在の会社はすでに1,000万円を超えていますが、それ以上に大きいのは年収の構成です。
監査法人時代の年収1,000万円のうち、約300万円は賞与でした。そのため年度の評価や監査法人の業績によって変動の幅がありました。
一方で今の会社の賞与は年間で100万円から200万円ぐらいです。
つまりトータルの年収はもちろんですが、月給が監査法人時代より上回っています。
また勤務時間も監査法人より今の会社の方がトータル少ないので時給も今の方が高いです。
監査法人時代は朝早いときは7時スタート、夜遅いときは22時終わりも珍しくありませんでしたが、今の会社は朝9時スタート、夜は遅くても20時までですので時間的にはかなりゆとりがあります。
組織内会計士の仕事
組織内会計士と一言で言っても、その仕事は多岐にわたります。
代表例として
- CFO
- 起業
- 監査役
- 財務
- 経理
- 経営企画
- 内部監査
あたりが多いでしょうか。
私は現在「財務」と「経理」を統括する財務経理部長を務めています。
他の仕事はやったことがないので、本記事では財務経理部長としてどのような仕事をしているのか簡単に紹介します。
筆者の仕事
色々とありますが、メインで行っている業務は以下の通りです。
- 日常の経費精算
- 月次決算
- 四半期決算
- 本決算
- 監査法人対応
- 会計処理相談、検討
- 借入や資金繰り検討
- 内部統制構築
- 内部統制監査のフォロー
- 株主総会事務局
日常の経費精算
精算作業そのものではなく、申請内容の不備や領収書との金額のチェック、要は承認作業が主です。
本記事は2023年10月に書いていますが、インボイス制度が始まったばかりですのでかなり神経を尖らせながら行っている業務です。
当社は社員数が200名を超え、全社員の経費申請のチェックを行うので地味に時間がかかります。
月次決算
私自身が伝票を起票することはなく、主な業務は新規案件等の情報収集や処理の検討、起票された仕訳の承認、役員の方々への説明等が中心です。
作業自体は部のメンバーに任せておけば良いので、作業中のメンバーの体調やストレス、残業時間に気を配るのが実は1番大事な業務かもしれません。
四半期決算
そのため決算の締め作業はもちろん、短信や四半期報告書も作ります。
月次決算と同じで作業そのものは私が行うことは多くなく、決算に取り込むべき内容の漏れがないか、決算修正のチェックや承認、役員の方々への説明が中心です。
入社当初は短信と四半期報告書を私がほとんど作っていましたが、最近は部内メンバーに極力任せるように業務移管を行っています。
数年前、短信発表直前に高熱を出したものの誰も短信を作れないので額に冷えピタを貼りながら短信を作った苦い経験を反省した結果です。
本決算
四半期決算と行う作業は近いです。
決算に取り込むべき内容の漏れがないか、決算修正のチェックや承認、役員の方々への説明が中心です。
本決算と四半期決算の大きな違いは税務申告があること、株主総会の招集通知と有価証券報告書を出すために開示資料の負担が四半期と比較にならないことです。
税務申告は顧問税理士の先生にお願いしていますが、やはりチェック等々が必要になりますし申告内容について相談することもあります。
招集通知と有価証券報告書は経理が持っている情報だけでは決して完成しないので、各部署からの情報収集、、、というよりは「この情報が必要だから出して!」とお願いする仕事が多いです。
人事への平均年収等の従業員情報の依頼、総務への株主情報の依頼、監査役(の事務局)への監査役会の開催情報の依頼等々・・・。
有価証券報告書は経理として本決算の集大成となる書類なので気合は入ります。
ただ、できあがる頃には疲労困憊で休みたいと思いつつ、できあがったと同時に第1四半期が始まる事実に震えるのが毎年のお約束です。
監査法人対応
ただし四半期や本決算で実際に来社する時点での監査対応は部のメンバーになるべく任せるようにしていて、私のメイン対応は監査や決算が始まる前です。
事前に論点となりそうなところを相談しておいて、決算が始まる頃には処理するだけという状態にもっていくことを目標としています。
まぁ大体、突発的なイベントが起きるのが恒例ですが。。。
来社しているときは主に資料の提出状況や質問への対応状況等の進捗管理だったり、役員との面談で間に入る作業が中心です。
監査法人対応も入社当初は私がほとんどやっていたのですが、監査法人対応は部内の若手にも経験を積ませたいので最近はあまり口出さないようにしています。
私に質問が来たときに「それは誰々に聞いてください」と答えることも最近増えました。
また最近は会計のポジションペーパーを書く機会が増えました。一昔前は口頭で良くも悪くもなぁなぁでやってきていましたが、最近は書面でしっかり残すようにしています。
最初は監査対応でイヤイヤ作ってましたが、1度作っておくと部内の説明とかに使えるので減損等の揉めがちなところは積極的に作るようにしています。
会計ポジションペーパーは監査法人時代に死ぬほど作った監査調書の作り方のスキルがかなり活かされています。というより監査調書作ればほぼ会計ポジションペーパーになると思いますので、監査法人出身の組織内会計士が自分の強みを活かせるポイントのひとつだと思います。
会計ポジションペーパーはまだ作り始めたばかりなので、私がメインで作っていますがこの作業もゆくゆくは部内の誰かに譲りたい作業です。
会計処理相談、検討
経理でない人たちは会計知識の差が激しいので
「この契約の初期費用って契約期間で按分になるかな」という平和なものから、
「先方からの請求を3か月後にしたから費用計上は3か月後ですよね」という簿記3級のテキストを投げつけたくなるような質問まで多種多様です。
これらの質問に答えつつ、内容を部内にも共有しつつあるべき会計処理を行うように段取りを行うことはかなり重要な仕事です。
ただし相談してくれれば良い方で、人によっては相談せずに勝手に進めたりすることも少なくありません。そのため社内でアンテナを立てつつ、変な処理をしようとしたら止めたり誘導することも重要な仕事です。止められた事例はほぼ皆無ですが。。。
また内容によっては監査法人との相談も必要になってきます。
監査法人と相談する内容も多岐にわたりますが、やはり見積り等の判断の余地が入る会計処理の相談が多いです。減損、在庫の評価、引当金の計上とかです。
私は会計士ですので、1番強みを活かしつつ楽しくやれる仕事の1つです。
借入や資金繰り検討
幸い、当社は資金繰りが苦しい会社ではないので資金繰りで悩むことはほとんどありませんが、税金や賞与等の多額の一時的な支出がある際はうっかり資金ショートしないように気を遣います。
銀行借入の検討も行いますが、銀行との関係は役員や社長も絡んできて私の一存で決めることもできず、情報揃えて相談する業務が中心です。
また、本記事を書いている2023年10月は為替レートが1ドル150円を突破したため、為替予約や外貨の調達についても検討を行っています。
内部統制構築
本記事を書いている2023年10月直近の事例では、インボイス制度への対応が具体的な事例となります。
自社で発行する請求書のフォームの見直し、新規取引先の適格請求書発行事業者番号の取得や報告のフロー等々です。
また、消費税の端数調整の処理が変わったので、基幹システムから売上データを取り込む際のダウンロードするデータや取り込み方の見直しも行いました。
他にも少し古いですが、収益認識基準が適用されるときは売上の計上フローをかなり見直しました。
内部統制監査のフォロー
当社にも内部監査室があるため、内部統制監査(J-SOX)における評価や監査法人対応は内部監査室が対応しています。
しかし私が監査法人出身ということもあり、内部統制監査で悩ましい点や監査法人との交渉等について私がフォローを行うことがあります。
一歩間違うと自己監査になって、監査法人からの指摘事項になってしまうので変なところに気を遣う仕事です。
株主総会事務局
株主総会の対応は総務の担当ですが、招集通知の作成や総会後の臨時報告書の作成等があるため、株主総会の事務局のメンバーになっています。
想定Q&Aの作成(主に決算数値関連)や総会で当日投影を行うスライド資料のチェック等をしています。
また、株主総会当日も事務局として出席しています。
まぁ当日はほとんどやることはなくお飾りに近いですが。。。
まとめ
- 組織内会計士は監査法人等以外の会社に勤めている会計士のこと
- 組織内会計士の人数は3,000人~5,000人ぐらい
- 組織内会計士の仕事は多種多様
- 筆者の場合、年収は監査法人より組織内会計士になってからのほうが高い
本記事を書いている2023年10月は監査を行う会計士が減っているというニュースが良く流れてきますが、事業会社で働く会計士はもっと増えて良いと思います。
最近の会計や有価証券報告書はどんどん高度化が進んでいますので、会計士が組織に入ることの重要性はこれからさらに上昇してくると思います。
それでは今回はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございました!